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伊豆に移住した都民meets古民家 その五「四面楚歌」

2023.8.25 / michi /

前回の記事では冬将軍との仁義なき戦いについて書かせていただきました。

あれから春が来て、長い梅雨も去り、今は夏真っ盛り。

伊豆半島もご多分に漏れず、例年より気温が高いようで。

少しでもお天道様の目を逃れようと、罪人よろしく陰ばかりを求める毎日です。

 

ただ、そんな昨今でも住まわせていただいている古民家に関しては、

標高と目の前の清流からもたらされる涼気のおかげで今もなお、エアコン無しで暮らせております。

朝晩は特に涼しく、寝苦しい夜はありませんでした。ありがたや。

陽の高い時間はさすがに扇風機先輩に首を横に振ってもらうこともありますが、

いったん川に浸かってしまえば、気化熱先生のお力添えもいただけます。

 

 

しかし、物事はすべて表裏一体のようでして。

冬将軍との闘いが来年に持ち越しのドローに終わって息つく暇もなく、

否応なく戦いのリングに上がるしかなかったのです。

 

都内にいた頃は緑を求めて公園や河川敷に通い、その手の雑誌や本も読み漁るほど、

緑と土に恋して家庭菜園や観葉植物、自然豊かな生活に思いを馳せてきました。

移住直前の症状末期には、Googleアースで多摩川の河川敷にいい感じの菜園のように見える場所を見つけ、

勢い余って見に行ってみれば、その辺りはブルーシートハウスにお住いの方のエリアだったりもしました。

 

そんな僕ですから、こうして自然界の丸の内みたいな場所で暮らしてやや後に、

ふとこんな言葉が頭をよぎったことに自分でも驚きました。

 

「これはもはや…緑の暴力だな」

 

後ろに山、前に川。左右はススキと森に囲まれたこの環境。

最高なのですが、今回の戦においては、まさしくの四面楚歌でした。

かつて恋焦がれた相手とも、生きるために闘わなくてはいけない場面もあるのでした。

越してきたのが昨年夏だったこともあり、去年はさほど脅威と感じなかった緑の勢い。

 

来てすぐ、家のまわりを歩くことも困難だったので、どんどん草を刈りどんどん木も伐採していきました。

秋から冬へ向かう季節の中さほど反撃に転じることもなく勢いを失ってゆく植物軍に、

かつて緑を渇望していた記憶も新しい僕は、「ちょっと…やりすぎたかな」と思ったのですが、

そんな気持ちも今は昔、春から夏への季節の植物軍に打ち負かされること数回、ポロッと先の言葉が浮かんだのでした。

今思えば、僕が恋しイメージしていたのはいわば、管理された緑。

自然ではなかったのです。公園、森、菜園…自然豊かどころか不自然ですらあることなど考えもしませんでした。

 

十数年人類の手の入っていない土地に暮らして初めて考えさせられた事実。

管理しようとなどおこがましく、緑化とはなんぞやと思えるほどの、圧倒的な自然界のパワー。

放置された家がそうであった通り、緑に「飲み込まれていく」感覚。

北海道での冬、雪に「埋もれる」車や家を見るのと同じかそれ以上に、

あらゆるものを埋め尽くし、機能不全にできるだけの力量を感じざるを得ませんでした。

 

 

核兵器的なアスファルトやコンクリート舗装、除草剤などの化学兵器に頼りたくなければ、

夏までに何度も何度も刈り取らねば一本の細い通路ですらその姿をとどめることはないのです。

恐らくは自然の中で「自然に寄り添って生きよう」という視点すらおこがましく、

 

「あのー、ここだけ通れるように刈らせてもらって…いやー、何かいつもすみません」

 

そんな、お邪魔させていただいてまスタンスでちょうど良いような気がしてくるのです。

きっと自然は僕がここに居させてほしいと思っていなければ、自然界の法則に許される限りを尽くし、

人類の痕跡など何もなかったかのように山から渓流へ続く景色を織り成すだけなのでしょう。

 

ちなみに、当初の好戦的に自分の居場所を主張しようとしていた時分に、

これはもはや暴力的だなと感じていたものは、この環境ではカビ(湿気)、蜘蛛(の巣)などなど。

白いベロアのブーツなんて持ってたかなと思うほどに、革製品でもなんでもどこでもカビますし、

すき間ありきの古民家では、しばらく動かさぬものはすぐに蜘蛛の巣でがんじがらめにされてしまいます。

 

 

それでもこの環境が良くて居つづけたいのなら。

自己主張をなるべく縮小し、譲れない部分だけは「お邪魔してます」精神を念頭に置きつつ折り合いをつけさせていただく。

なぜなら、その対極の自分を思い浮かべると…

敷地のコンクリート舗装上に芝と観葉植物を配し、高気密住宅を建てて基礎周りにせっせと防虫剤を散布する姿が見えます。

 

少なくともここでは、自然に遊ばれてるくらいの空気感がちょうど良いのかもしれない。

そうつぶやきながら、今日も顔に張り付いた蜘蛛の巣を払うのでした。

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