LODGE MONDO -聞土-

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こんにちは、ヘイマンです。

マウンテンバイクのガイドを始め、トレイル整備、木の伐採、マキ作りなどをこなして『山』の仕事がだいぶ板についてきた私ですが、『海』に関しては相変わらずド素人です。

幼少期、釣りや素潜りに勤しむ同級生を横目にポケモンのレベルを上げ続けていた私。そんな私が、足漕ぎドライブ付きカヤック『Hobie Kayak』に乗り10kmを超える遠泳のサポートをしたお話をさせていただきます。





ことの発端はマウンテンバイクツアーに遊びに来てくれたダニエル from USAからの一言でした。

ダニエル「Swimmingしたいねんけど」

私「どうぞどうぞ、目の前に海あるしシャワーもあるよ」

ダニエル「いやちゃうねん、長い距離泳ぎたいねん」

私「?」

ダニエル「君んとこええカヤック持っとるやろ?あれでついてきてほしいねん、食料とか水持って。そんでまぁ、10〜15kmくらい泳ぎたいねん」

私「!?」

ダニエル「もちろん金は払うし。どう?やってーや」

私「うーん、とりあえずボスに来てみるよ」

そんな話をボスこと松本潤一郎にしてみました。





法に触れなければ基本なんでもOKな社風なので、

「面白そうだからやってみなよ」と二つ返事で遠泳サポートツアー開催が決まりました。

ちなみにこの時、カヤックで一人で海に出たことはなく、大抵のことはなんとかなるだろうと楽観的な私も不安でいっぱいでした。





ボスから海上での注意事項を聞き、YouTubeで遠泳やカヤックの動画見漁りましたが、見れば見るほど水難事故や風や潮の影響で帰れなくなったカヤッカー達の動画ばかり目につき、かえって不安は増すばかりでした。

ダニエルから提案されたのは松崎港を出発し、町の最果てである『雲見』の烏帽子山にタッチして再び松崎港に戻る12kmのコース。

松崎港から2kmほど南にある『萩谷』というビーチにカヤックで行った時でさえ、こんなに遠くまで来たのかと感動しましたが今回はその5倍以上。

いざとなれば、、どうすればいいんだろう、まぁなんとか、なんとかなるだろう。

と希望的観測のまま当日を迎えてしまいました。





カヤックをコロコロ引きづりながら憂鬱な気持ちで港に向かうと、すでに準備を始めているダニエルがいました。

ダニエル「おはー!最高の天気やん!めっちゃワクワクしてるわ!早速やけど背中、塗ってくれる?」

と、巨大な背中に日焼け止めをヌリヌリするところからスタート。





そして意気揚々と海に泳ぎ出したダニエル。カヤックに乗る私は彼との距離感がうまく掴めず、今思えば遠すぎる位置からなんとなくついていきました。

ダニエル from USA




いざ海にで出ると、事前に聞いていた『船の航路』のことも頭から抜け落ち、気が付くと彼はまさに航路のど真ん中を横切っていました。

前方からまるで巨大な戦艦(のように見える)遊漁船が近づいてきました。

この日は波も高めで、海面に近いカヤックの上からでは時折彼の姿が見えなくなるほどでした。

ダニエーーーーーール!!

と叫んでも耳栓をしている彼には届きません。

急いでカヤックを横付けして緊急停止。

漁船の上からは「離れろ!」とジェスチャーとする搭乗員の姿が。

すいませんすいませんすいませんと心の中で何度も叫びながらなんとかやり過ごしました。

ダニエル「今の人、何て言うてたん?」

私「近過ぎて危ないって怒ってた。ここは船の道だから」

ダニエル「なんで怒るん?彼らの海ちゃうやん、海はみーんなのもんやろ?」

私(やかまし‥)





気を取り直してボスからの注意事項を思い出し、近づくなと言われた定置網を回避することに専念しました。

迂回し過ぎて再度漁船の航路上に出てしまい船上から注意を受け、早くも帰りたくてたまりませんでした。

そんな私を気にも止めず泳ぎ続けるダニエル。

あたりには漁船の姿もなく、青々とした海が目一杯広がっていました。




ここまでくればとりあえず一安心とダニエルの方を見ると、うつ伏せで力なく浮かぶ彼の背中が見えました。

急いで近づくと、ザバーッと顔を上げ、

ダニエル「見て!めっちゃ魚おる!めっちゃキレイ!」

私(ほんとやかましいわ。ほんといい加減にしてくれ)





本気でイラッとしながら海面を見ると、太陽の光を浴びてキラキラと銀色に輝く魚の群れが見えました。

キレイやん。




再び気を取り直して集中!旅はまだ始まったばかりと自分を鼓舞し、彼を追いかけました。

萩谷を越えて岩地、石部沖を進み、ダイビングの聖地として知られる雲見に差し掛かる頃にはダイバーの送迎船が忙しく海を走っていました。

もう怒られるのは嫌だ!とピッタリと彼に寄り添いながら進みます。

雲見海水浴場のアイコン的存在の『牛着岩』を通り過ぎて烏帽子山にタッチ。

ようやく半分が終わりました。





ここまでの距離が目標に達していなかった事に不満なダニエルは、もっと大回りで戻ろうと提案してきました。

これまで何かと近づき過ぎて怒られていたので私もこれに賛成。

往路よりも遠くに石部、岩地の集落を見ながら復路を進みます。





遠泳中の補給はカヤックに捕まりながら行いました。

私は彼に指示されるままにバッグからバナナや水、ゼリーを渡していました。

緊張のあまりダニエルの頭ばかり見ていた私は盛大に船酔い。

後にも先のもこれが初めての船酔いでした。





見慣れた我が故郷『松崎港』を捉え、定置網もしっかり回避してゴールは目前。

完全に気が緩んだ私達は再び船の進路を妨害してしまい、

「まだいたのか!もうやめなさい!!帰りなさい!!!」

と、船上のオーバードライブが効いたスピーカーから怒られ、初めての遠泳サポートは終了しました。





とにかく生きて帰れてよかった。





サッサと着替えて帰路に着くダニエルを見送り、遊漁船の船長に謝り、カヤックを片付けて帰りました。

その日の様子を聞いたボスはケラケラと笑い、安堵感から私もつられて笑いました。いいネタができてよかった、そんな風に思っていました。

数日後、お礼と共に『Next swimming plan』というメッセージが来るまでは。





彼の次なるコースは、松崎港を出発して北上、堂ヶ島沖を泳ぎ『田子島』でターンして、沿岸の島々を泳ぐというもの。

半ば呆れた様子のボスは、

「まぁやってあげたらいいんじゃない」

とゴーサイン。

海の上で怒られるトラウマを拭いきれず尻込みしていましたが、ここで逃げては成長はない!と奮い立ち、前回の反省を活かして入念な準備をしました。

航路の再確認、腰を労るためのクッション、自分自身の補給食と水分。

そして海上に浮かぶゴミを拾うための網。





海面との近さが魅力でもあるカヤックからは、驚くほど多くのゴミが目につきます。

うっかり落としてしまっただろうものもあれば、明らかに捨てたであろうゴミもあります。

無事にこの遠泳を終えることが出来るよう、海の神に祈りを捧げる気持ちでゴミ拾いをしました。





前回よりも1時間早くスタートした2回目の遠泳。

船の航路を塞がぬよう慎重に泳ぎ出し、ダニエルとの距離感も掴めて順調に始まりました。

視線を遠くに置くことで船の動きの予想がつき、早めに対処することができました。この辺はマウンテンバイクと通じるものがありますね。





カヤックフィッシングツアーではお馴染みの『安城海岸』『安城岬』を越えて仁科漁港が見てきます。

堂ヶ島沖を泳いでいる間は伊豆半島のダイナミックな地形を横目にクルージング気分で進みました。

そして『大田子』沖に差し掛かった頃には多くのダイバーやジェットスキーヤーの姿が。

手を振ると振り返してくれて、どこから来たんですか?なんて会話も交えながら泳ぎ続けました。





そしてターニングポイントである『田子島』が見てきました。

この島の周りは潮が速く、なかなか前に進みません。

田子島から釣りを楽しむ人々は、いつまでも進まない海坊主とそれに寄り添うカヤックを心配そうに見つめていました。

あまりの潮の速さにダニエルは根を上げ、カヤックに捕まりながらぐるりとターン。

足漕ぎフィンドライブ搭載の、かなり速度の出るはずのカヤックですが、人が一人捕まっただけでその機動力は大幅に低下し、100m進むのもやっとでした。





往路から復路に変わり、潮も味方してくれて、さすがはダイビングスポットといった水の透明度に気持ちは軽くなりました。





あっという間に堂ヶ島に差し掛かり、爆走するジェットスキーに手を振っていると松崎港の赤い灯台が見えてきました。

ダニエルの補給食はみるみる消化され、代わりに拾ったゴミが増えていきました。

ダニエルも元気そうで、猫舌のくせに熱い紅茶をカヤックに捕まりながら飲んで火傷した以外は問題なさそうです。

そして予定より1時間ほど遅れて無事ゴール。

今回は16kmの行程を泳ぎ切りました。お疲れダニエル。




ダニエル「いやー今回も最高やったわ。田子島の周りホンマに潮が速過ぎてク○やったけどww」

私「無事終わってよかったよ」

ダニエル「ワシな、来年香港からマカオまで泳ぎたいねん。35kmあんねんけど。そのいいトレーニングになったわ。ホンマありがとう」

私(クレイジー‥)





相変わらず撤収の早い彼は、私がカヤックを片付けるより早く帰って行きました。

数日後、お礼と共に『Next swimming plan』というメッセージが来て3回目の遠泳サポートが決定しました。





3回目ともなればもう慣れたもの。海上でのサインも決め、サポートの精度は上がって行きました。

今回のコースは『松崎港』を出発し1回目と同様、雲見の『烏帽子山』にタッチ、そのまま2回目と同様に『田子島』を周り再び松崎港に戻ってくる20kmを超える行程となりました。





ダニエルは泳ぐ際に耳栓タイプのイヤホンをしてラウンジミュージックをリッスンしているため声はほとんど届きません。

彼の息継ぎのタイミングで、ハンドサインによる方向指示と停止のサインを出します。

水温はまだまだ温かく、絶好の水泳日和だとはしゃぐ彼がのびのびと泳げるように危険を排除していきます。同時に海上のゴミも拾い集めていきます。

ダニエルは明らかに泳力が上がっており、あっという間に『烏帽子山』にタッチして松崎港に戻ってきました。

松崎から堂ヶ島までは潮が行く手を阻み、いつまでも視界に居座る『堂ヶ島温泉ホテル』に苛立ちもしましたが、存分に外洋を楽しんでいるようでした。





泳いでいる側カヤックの上とでは潮や風の印象は真逆で、カヤックでは波を切り裂き向かい風を浴びながら進む方が、移動している実感もあり快適でした。

逆に泳いでいる側が快適と感じる、潮と風に背中を押される場面では、風はカヤックのスピードに相殺されて無風状態、加えて照りつける日差しも重なり船酔いを誘いました。

海面の様子も、向かい風の時にはキラキラと飛沫の上がり、追い風の時にはトロトロと落ち着いた表情に変わりました。

海上でのランチタイム、ダニエルはりんごとワッフル、私は妻の握ってくれたおにぎりを食べました。





ダニエル「ちょっと肩痛いわー」

私「え、大丈夫?」

ダニエル「余裕やろ。ワッフルも美味いし今日も最高やわ」

そんな会話から2時間後、彼の肩は限界を迎えました。





ダニエル「あかん、ホンマ痛いわ。なんでやろ、痛いわ。ちょっと捕まらしてな」

私(嫌な予感がする)





場所は堂ヶ島沖、ゴールまではまだまだあります。

往路で視界に鎮座していた『堂ヶ島温泉ホテル』もやっと見え始めたばかりです。

抜群の安定感と操作性、そしてスピードを誇る『PASSPORT』ですが、それはあくまで一人でカヤックの上に搭乗していればこそ。

半分以上浮いているとはいえ、2m近くある海坊主に捕らえられては、舵もきかずロクに前には進みません。

このままでは埒が明かないと判断し、思い切ってカヤックの上に乗り込んでもらうことに。

以前やった『再乗艇』の練習を思い出し、ダニエルと呼吸を合わせます。

ひっくり返る寸前までカヤックが傾きながらもなんとか乗り込めました。

野郎二人が背中合わせに乗るカヤックにはロマンチックのかけらもありませんでした。





それからは無我夢中でドライブを踏み続け、ここ数年で体感したことのない強度の運動を続けました。

陸上部だった高校時代のあの辛さが何度もフラッシュバックして心がへし折れそうでしたが、ダニエルに彼女との馴れ初めなどを聞きながら気を紛らわせました。





ダニエル「もうここから泳ぐわ。サンキューな」

と彼が降りた瞬間、一気に全てが軽くなって力が戻ってきたのを感じました。まぁゴールまであと残り50mほどでしたが。





本来のゴールである『松崎港』までは到底無理と判断し、2kmほど手前の『安城海岸』にてフィニッシュとなりました。

それでもダニエルが泳いだ距離は20km、トレーニングとしては充分であり、私にとっても緊急時の訓練として実りあるものでした。

例の如くサッサと撤収していくダニエルを見送り、家に帰り泥のように眠りました。





こうして3回にわたる遠泳サポートツアーは幕を閉じ、ダニエルの泳力の向上と、私の人間としての成長をもたらしてくれました。

ありがとうダニエル。





数日後、私のスマホがポキンと鳴りました。

メッセージの送り主は、ダニエルでした。





つづく?

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